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中国税理士政治連盟・会報原稿(平成19年1月号)

税制改正の新システムの構築
税理士 黒木貞彦

T.税制は国民が決めるもの

(1)現行の税制改正システム
 5年に及ぶ自民党独裁政権の奢りにより、平成18年度の税法改正で、近年まれに見る「悪法」が創設されました。それは「特殊支配同族会社の業務主宰役員給与の損金不算入制度」(法人税法35条)であるが、この「悪法」は法人に対し、平成18年4月1日以降開始する事業年度から施行されている。
 現行の税制改正システムは、各税制調査会などが密室で協議し、最終的には官僚主導型で、次のように税制が改正されている。

1.官僚主導の提案
 官僚の都合の良いように税制改正案が提案されている。特に最近の傾向は、公開を避け、十分な審議をさせないように、年末ギリギリに「劣悪で重大な」改正案を提出している。今回の「悪法」と、平成16年度の「譲渡損失の損益通算廃止」は問題の改悪である。

2.閣議決定は覆せない
 平成18年度の場合には、閣僚の税法知識・審議能力が乏しく、官僚が提案したそのままを鵜呑みにして、平成18年1月17日に閣議決定された。その後の国会審議は消化試合にすぎない。

3.租税法律主義違反
 改正条文が大雑把すぎて、国税当局の通達を待たなければ、実務処理ができない状況で、現場の税理士も困惑している。これは租税法律主義に反し、憲法違反である。


(2)税制改正は国民が主役
 憲法30条には「国民は法律の定めるところにより、納税の義務を負う」と定められている。この解釈として「・・法律の定めるところにより」は、「租税法律主義」の原則を、また、「国民は・・・納税の義務を負う」は、「納税者主権主義」の原則を表明しているとされている。
 「納税者主権主義」の考え方は、税制の改正は国民が望む税制を、国民が意思決定することから始まる。そして、その意思決定の内容を、国民が選挙により選んだ議員によって、議会で審議され税制として立法されるものである。
 現在のように、国民無視で、官僚が税制を作成し立法されるものではない。あくまでも国民が主役である。
 「税制はお上(官僚)が決めるもの」という考えは、間違いであり、税金は国を創った主権者たる国民が、その費用を自ら負担するものとする「納税者主権主義」により、「税制の決定権は国民にある」と、思考回路を根本的に改めるべきである。

(3)携帯電話から意識調査が可能
 鳴り物入りで推進している電子申告は、電子メール(以下、eメールと言う)の機能を使ったもので、eメールは今や生活の必需品となっている。このeメールを使って、財政や税制に関する国民の意識調査を実施すれば、ほとんどコストがかからず、大多数の国民の声をたやすく集約することが可能である。
 小学生にまで普及した携帯電話からも、eメールは送信できるもので、「携帯電話からの意識著調査」ができる時代になっている。
 携帯電話からの国民の声が瞬時に聞ける時代になって、国民の意思を反映しながら政治が行える時代に突入し、古い体質の独断的な官僚や政治家は引退する時を迎えたようである。
 この国民の意識調査を実施する団体は、税制の専門家集団である日本税理士会連合会(以下、日税連という)が理想的だと考える。


U.税制改正への手順

(1)先に財政再建を実行する
 国家財政の収支が安定的で、税収を見直すか、あるいは税目間の調整を図れば良い状態であれば、「税制改正」の論議が可能である。
 ところが、平成18年度末の国と地方の借金の残高予測775兆円から考えると、日本の国家・地方財政は既に破産状態である。破産状態の財政は、借金の弁済方法や財政支出から根本的に見直さなければ、立て直すことができないから「消費税の増税を審議する前に」、「財政再建」の論議をしなければならない。「財政」について、国民の意思をeメールにより集約する必要がある。

(2)借金の弁済額を決める
 借金の弁済額を決めるには、次の手順で進めて行く。

1.公会計に複式簿記を導入し、貸借対照表を作る
 単年度の収支予算だけの会計では、財産や債務の状況が正しく把握できないので、借対照表を作り、財産と債務を対比して、正しい財政状態を把握する必要がある。
 財政赤字のみ775兆円近くあると強調されても、それに見合う財産がどれだけあるのか、全く公表されてない。国有財産がどれだけあって、借金がこれだけだと、公表するべきである。
 この監査には、ボランティアで全国の公認会計士の協力を頂くのはどうであろうか?

2.国有財産を徹底的に処分する
 国有財産を一般会計だけでなく、特別会計も全て集計してオープンにすべきである。そして、国有財産を分類し、売却可能なものを徹底的に選びだし、民間委託の流れに沿い、可能な限り売却処分する。国立大学も例外ではない。

3.売却資金で借金を弁済する
 売却した資金で借金を弁済する。一般会計だけでなく、特別会計も含めて、精算する。そして、借金の残高を国民に示すべきである。

4.弁済計画を国民に聞く
  借金の残高が確定したら、国民にどのように返済するかを選択してもらう。急いで返すのか、長期に返すのか、それは国民の意思で決定するべきものである。官僚が勝手に決めるものではない。

(3)財政支出を決める
 国民は国家の維持活動の費用、つまり財政支出を決定する権限を有している。
 例えば、「大きな政府」を選べば、国家の費用は大きくなるし、「小さな政府」を選べば、国家の費用は小さくてすむ。また、国民が受ける公共サービスのスケールも国民が決めるものである。徹底した社会保障を望めば、とてつもなく大きな費用が必要であることは言うまでもない。
 このように、国民は、国家の費用や公共サービスを選択し、財政支出を決める権限を有しており、それを選択・決定し、eメールで国民の意思を集約し、財政支出のボリュームを決定する。

(4)改正する税制を決める
 「借金の弁済額」と「財政支出」が決まれば、それをまかなうために財政収入の規模も自ずと決めることができる。
 財政収入のうち、税収がどれだけ必要か、どの税目(消費税か所得税か)をどれだけ(何%)増税するかの決定権限は国民にあり、国民の意思をeメールにより集約して、ようやく税制改正の論議が可能となる。

V.新システムと税理士の役割

(1)「新しい税制改正システム」を構築
 次のような「新しい税制改正システム」の構築を提言する。

1.例えば、日税連のeメールを利用し、上記のような手順で、国民の意思を集約するシステムを作る。また、各種団体の税制改正に対する要望を取り上げる。特に、税理士会、法人会など、全国的に集約された提言を聞く窓口を日税連内に開設する。

2.集められた国民の意思をまとめるのは、公正中立な税の専門家である「税理士」を活用する。全国の税理士からなる税制改正チームを作り、国民の代表として、税制改正の素案を作成する。これを良識ある政党を通じ国会に上程し、国会で審議、可決する。
 このシステムは、これまでの税制調査会のものとは根本的に異なるる。それは国民の意思がベースにあり、一部の官僚が机上で考えたものではないからである。

税理士会にも政治力が必要
 国民が主権者であり、税制は国民が決めるものである。国民が決定した財政改革や税制改革の方針を実現してくれる政治家を我々が選ぶのが筋である。政治家を選んでから、財政改革や税制改革の実現を「要望」したり「懇願」したりするものではない。
 これまでも税理士会は、税理士の考える税制を実現させるため、政治家を支援してきたが、何の成果も上がってない。
 どうやら、税制に無知な政治家を動かす「他力本願」には限界があり、そろそろ「自力本願」で税理士を候補者として、国政にも地方政治にも税理士を送り込むべき時が来たようである。